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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)110号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴会社を解散する。被控訴会社の昭和三三年八月四日開催の臨時社員総会における別紙目録記載第一ないし第一八の各決議を取消す。右取消しの理由がないときは、第三ないし第一五の各決議が無効であることを確認する。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の提出、援用、認否は、次に付加するほかは原判決事実摘示のとおり(ただし、一二枚目裏末行の「分部」を「分別」に、一六枚目表九、一〇行目の「損害は述のとおり」を「損害は前述のとおり」に、一九枚目裏三行目の「提供し」を「提起し」に、四一枚目表一一行目の「持分の受けて」を「持分の配分を受けて」にそれぞれ訂正する。)であるから、その記載をここに引用する。なお、控訴人は、本件控訴の提起と同時に当裁判所に対し訴訟手続受継の申立てをした。

一、控訴人の主張

(一)  会社解散請求権や社員総会決議取消ないし無効確認請求権は、社員の一身専属権ではない。元来、株式会社の株主や有限会社の社員となるのは、会社設立当初からであると、社員権を譲受ける場合であるとを問わず、会社という経済的利益追求のための社団に参加して自らも経済的利益を得ようとするためであつて、社員権は財産権に外ならない。勿論、社員権の中には利益配当請求権の如く財産的内容を有するものの外に、議決権や帳簿閲覧請求権の如きも含まれており、前者を自益権、後者を共益権と呼称して区別することが一般に行なわれているが、共益権なるものは、本来財産権の侵害を防止するために認められた派生的な支分権に過ぎない。従つて、例えば総会決議取消請求権を行使して訴訟を提起した者は、他の社員のためではなく、自己の財産的利益追求のために訴訟を追行するのである。

(二)  総会決議取消請求権が一身専属権でないことは、(イ)右権利は議決権の転換的、救済的、是正的権利というべきであるが、その議決権自体、代理人によつて行使できること(商法第二三九条第三項、有限会社法第四一条)、(ロ)右権利を行使する者は訴提起の時において社員たることを要するが、決議の当時における社員たることを要求されていないこと、(ハ)社員は自己に対する総会招集手続に瑕疵がある場合のみならず、他の社員に対する招集通知もれ等があつた場合にも、これを理由に総会決議取消請求権を行使することができること(大審院明治四二年三月二五日判決、民録一五巻二五〇頁)、等からも明らかである。

もし総会決議取消請求権が一身専属権であつて、原告死亡の場合相続人において訴訟承継をすることができないとすれば、相続人はあらたに訴訟を提起する外ないことになるが、その時は最早提訴期間を経過しているのが通常であつて、不当な決議を黙過しなければならないという不合理な結果を招来する。これを避けるためには、検察官をして訴訟を承継させる等の立法措置が必要であるが、そのような措置が講ぜられていないのは、右権利が一身専属権でないことの証左である。また、原告死亡という偶然の事実によつて不当な決議を取消す機会が失われ、会社当局の非違を是正することができないということは、法律制度全般から見ても首肯できない。かように相続人の保護及び団体生活の秩序保持という見地に立つて、相続人が訴訟承継をすると解するのが相当である。

(三)  仮に会社解散請求権と社員総会決議取消請求権が一身専属権であるとしても、決議無効確認請求権は社員たる資格と無関係に何人からも、如何なる方法によつても行使することができるものであつて、一身専属権でないことが明らかである。

本件において原告古荘伊助は右権利をも行使しているから、少なくとも本件訴訟中右権利に関する部分については、訴訟承継があつたものというべきである。

二、被控訴人の主張

会社解散請求権、社員総会決議取消ないし無効確認請求権は、いわゆる共益権であつて、社員の一身専属権である、控訴人は、先代伊助の死亡によつて被控訴会社の出資持分自体を相続し、その際原始的にかかる共益権を取得したのに過ぎない。

本件訴訟は、原告伊助の死亡によつて終了したのであり、訴訟承継を生ずる余地はないから、控訴人のした受継申立ては不適法であり、控訴人は本訴における当事者適格を有しない。

理由

まず、本件控訴の適否について一言する。原判決は、原審訴訟中に死亡した原告古荘伊助を当事者として表示しているが、右は、本件訴訟が原告の死亡により終了したとする原審判断の帰結からすれば、訴訟承継を生ずる余地がないために、そのような表示がなされたのであつて、原判決の認識する実質上の原告は、伊助の相続人として本件訴訟を承継した旨主張している控訴人に外ならないと解されるから、控訴人による立件控訴は適法というべきである(なお、控訴人が本件控訴提起と共にした訴訟手続受継の申立ては、原判決の送達によつて中継を生じた訴訟手続を形式的に受け継ぐ必要に出たもので、控訴人が伊助の相続人であること後記のとおりであるから、右申立ては理由がある。)。

次に、古荘伊助が被控訴会社に対する出資持分六四〇口を有する社員であつたこと、同人が本件訴訟提起後の昭和三六年一二月九日に死亡し、古荘ゑつ、同猛(控訴人)、同久、同哲、原田敏子の五名がその相続人であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第一二号証によると、右五名は昭和三七年一月三〇日遺産分割に関する協議を行ない、伊助の遺産中被控訴会社に対する出資持分六四〇口全部を控訴人に取得させる旨を定めたことが認められるところ、本件訴訟を提起した伊助の主張は、要するに、被控訴会社の資本の一〇分の一以上に当る出資持分を有する社員としての資格に基づき、有限会社法第七一条第一項第一、二号該当の事由ありとして被控訴会社の解散を請求し、かつ、被控訴会社の社員たる資格に基づいて、昭和三三年八月四日開催の臨時社員総会における一八項目の決議の取消しと、予備的にそのうちの一三項目の決議の無効確認を請求するというにあつたから、伊助の死亡、ないし前記出資持分の相続と本件訴訟との関係について検討する必要を生ずる。

有限会社の社員に認められている会社解散請求権(有限会社法第七一条)や社員総会決議取消請求権、同無効確認請求権(同法第四一条、商法第二四七条、第二五二条)は、いずれも社団法人の社員が社員たる資格に基づいて当該社団に対して有する諸種の権利のうち、いわゆる共益権に属するものであるが、共益権は、同じく社員が社団に対して有する利益配当請求権の如きいわゆる自益権と異なり、専ら社団自体の利益のためにのみ行使すべく社員に附与されたもので、財産的性質を有さず、もとより自益権から派生したものでもなく、社員の一身に専属する権利であるから、これを他に譲渡することができないのは勿論、相続の対象とすることもできないものと解するのが相当である(共益権の右のような性質は、主として株式会社における株主の共益権に関して論ぜられている所であるが、有限会社の社員が有する共益権についても、その理論がそのまま当てはまるものであることはいうまでもない。)。控訴人が総会決議取消請求権につき、それが一身専属権でないことの例証として挙げる点は、いずれも右権利が一身専属権であることの障害たり得ないものである。

なお、社員総会決議無効請求権について附言するに、条文上はこれを行使する者の資格に何等の制限がないが如くであるけれども、決議の内容が法令または定款に違反することを理由として決議の無効を主張するには必ず訴をもつてすべく、右訴訟はいわゆる形成訴訟に属するものと解せられ、訴訟を提起する者の資格も原則として当該決議と密接な関係を有するところの株主または取締役に限定するのが相当である。しかして、株主について認められるこの権利は、共益権に属するのである。

右の如く、会社解散請求権、社員総会決議取消請求権、同無効請求権が相続の対象となし得ないものである以上、本件訴訟は伊助の死亡と同時に終了したものであつて、控訴人が伊助の出資持分を相続し、被控訴会社の社員になつたとしても、本件訴訟における伊助の地位を承継することができないことは明白である。

してみると、伊助の死亡による本件訴訟の終了を宣言した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用した上、主文のとおり判決する。

別紙

目録

第一、火災直前(昭和三三年五月一一日現在)の被控訴会社の仮決算書を承認する旨の決議

第二、焼失資産及び残存資産目録を承認する旨の決議

第三、焼残木中、大きいものは町内に寄附し、その他は近隣数戸に無償分譲したことを事後承認する旨の決議

第四、羅災機械を羅災数日後に丹後織物丸石有限会社(以下「丸石有限会社」という。)の分と一括して他へ売却し、その代金を丸石有限会社に預け勘定にしていることを事後承認する旨の決議

第五、火災焼跡整理費について丸石有限会社が支出したものを被控訴会社において分担することを承認する旨の決議

第六、丸石有限会社が賃借中の工場、建物、機械に要した改修費を有益費として丸石有限会社へ償還することを承認し、機械については別途考慮する旨の決議

第七、丸石有限会社が賃借中の建物、機械について従来一〇余年間支払つてきた火災保険料を被控訴会社において火災保険金受領分に応じて負担することを承認する旨の決議

第八、火災による損害賠償を丸石有限会社に請求しないことを承認する旨の決議

第九、残存機械(老朽品で帳簿価格の幾分の一にしか当らぬもの)を処分することとし、その方法は取締役土肥精之助に一任する旨の決議

第一〇、昭和三三年七月二五日被控訴会社所有不動産全部を丸石有限会社に売却し、その代金を前記第六の有益費償還金と相殺したことを事後承認する旨の決議

第一一、昭和三二年度決算時計上の未収入金一九一万円は丸石有限会社に対する債権であるが、その中一二七万九、七〇〇円は単に帳簿上の形式的な存在に過ぎないものとして丸石有限会社に対し、右債権の不存在を承認する旨の決議

第一二、丸石有限会社に対し、被控訴会社において火災見舞金一〇〇万円を贈与することを承認する旨の決議

第一三、被控訴会社取締役土肥精之助に対し六三万円余の役員報酬を支払うことを承認する旨の決議

第一四、被控訴会社の土肥精之助からの借入金元利合計(昭和三三年七月三一日現在)三五万八、一七二円を直ちに返済する。ただし、借入時と返還時の貨幣価値の相違を考慮して将来被控訴会社解散もしくは社員退社による持分分配の際、財産評価差額配分について、立替並びに貸付元金の五倍以下の範囲内で物価指数変動に比例した額につき土肥精之助に優先配分する旨の決議

第一五、定款第一九条により取締役の相続人が所定の役職に就任するときは前任者の持分の一部または全部を後任者に譲渡することに当社全員同意すべきことを承認する旨の決議

第一六、弁護士加藤俊徳に被控訴会社の法律顧問を委嘱する旨の決議

第一七、京都地方裁判所昭和三三年(ヨ)第一七八号、第一八一号各仮処分事件によつて発生した費用及び損害をすべて右事件申請者である古荘伊助に負担させる旨の決議

第一八、(一) 一時借入金を承認する旨の決議

(二) 被控訴会社々員古荘伊助の持分譲渡退社を承認する旨の決議

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